夢舞台

引き分け再試合となった、決勝戦

まさに球史に残るといった試合だった。


思えば、今年の大会はいろいろあった。

亀山たちの代が敗北。完敗だった。だから逆に俺のせいなんじゃないかとも考えた。俺だったら打てただろうか?俺だったら抑えられただろうか?その答えはわからないが、少なくともわかるのが、俺がいつか東京で1番のセンターになってほしいと願いながら一生懸命教えた亀山が三振し、絶対いい投手になると信じて教えている2年の山戸が打たれた。

俺らが負けた相手は、第2シードを撃破。正直、あの戦力だったら東海大高輪台には勝てると思っていた。

その後地方予選は荒れ、ベスト4に駒場学園と都足立新田が残った。

甲子園では、ホームランがよくでる。

誰かに1人に注目されるチームが少なくなった。



3連覇の偉業を成し遂げようとする駒大苫小牧と、

史上初の優勝を目指す早稲田実業


勝戦は、1−1の15回引き分け再試合だった。

3日連続の登板となった早実の斉藤がどこまでいくかと思ったが、予想をはるかに上回る選手だった。

春の選抜から思っていたが、無尽蔵の体力。15回に147キロを投げるのは3日連続の登板とは思えない。

でも正直、早実の斉藤には投げてほしくない。

4連投はさすがにきついだろう。いくらあの斉藤といっても。

ここで、これからの成長を止めても・・・。


俺も、ここまできたら早実の斉藤、駒苫の田中で投げ合ってほしいとは思うけど、どっちもプロ志望ならもう投げるべきではない。

投手の成長は、投げなきゃ伸びないが、投げすぎると止まる。上原とか松坂をメジャーが本腰をいれて獲得しにいかないのは、高校時代に投げすぎているからこれ以上の成長は多くは望めないからという話がある。

プロで本当にいい選手になるか、全国の人々に斉藤という何連投もして頑張った投手がいたと記憶に残すか。どちらも選べないと思う。

十中八九、明日の先発は斉藤だろう。これからの未来をどうなるかわからなくても、今を精一杯生きる。そういう姿に感動するから高校野球はいつまでたっても人気が衰えないのだろう。

彼らにとって最高の夏にしてほしいと思う。


俺が最後の大会。肩がひどく痛かった。あの時、少し自分でも決意していたかもしれない。

「俺の選手生命は高校までかもしれない」

鬼気迫るものだったと今でも思う。ただ「勝ちたい」と願い、投げ続けた。痛みはもちろん忘れ、最後までマウンドを譲らなかった。

1ヶ月前の全身麻酔の手術。最高のパフォーマンスじゃなかったといわれる。たしかにそうだったと俺もおもう。四死球を多く出したし、ストレートもいつもより遅かった。でも、俺はあの試合で俺の高校野球をまとめた試合だと思う。高校野球の試合の中でベストゲームは間違いなくこの試合だろう。

試合後、帰りの電車で肩が痛みだした。でも、この痛みも一時の炎症にすぎないとおもったら、なんかどうでもよくなった。「もうこんなに投げることもないだろう」と。

どんなに弱くても、どんなに勝てなくても、どんなにつらくても、そしてたとえどんな状況でも俺は甲子園を目指していたとおもう。確かに実績はない高校だけど、俺は日々強豪校に負けないつもりで練習してきた。今でもあの保谷を完璧に抑え込んだことや、ベスト8の世田工相手に堂々と投げきったことは忘れない。

夢舞台をかけた試合も、自分にとっての夢舞台。

少しでも長く。少しでも多く。


高校野球にはそういう魔力があると思う。



高校野球の最後の試合。俺は最高に楽しかった。